父親たちの星条旗(ネタバレあり)


パブリシティに押されて「硫黄島〜」を観ようと思い、それならセットで観なあかんやろということでまだやってる劇場を探し、廃墟寸前のMOVIX本牧へ。
期待も先入観も無かったが、出だしからテンポ良いカットの繋ぎが気持ちよく、すぐにイーストウッドの職人芸にはまっていく。
やっぱり戦闘シーンのド迫力が凄いので、そのインパクトばかり印象に残ってしまうが、全体を通してあくまで淡々と描かれる冷徹なタッチがこの映画のキモだろう。だからキャンペーンに狩り出された3人を追う目線もあっさりとしたもので、ポール・ハギスも絡んでるからもっと深い人間ドラマにも出来たと思うんだけど、そこは2人のせめぎ合いというか、回想のなかでアメリカが失ってしまったものを振り返るようなスタイルは、あくまで時代を俯瞰視するように引いていてキャラクターの懐には入っていかない。イーストウッドなので当然のように人間ドラマを求めてしまうが、日米双方の視点から描かれた2部作のスケールからしてちょっと毛色が違うようだ。インディアンのアイラなんかいかにも泣かせどころなんだけど、酒びたりとなってからはあっという間に死体を眺めて終わりという冷徹さ。この辺が評価の分かれ目になるのかも。自分も人間ドラマを求めた故に見終わった後の余韻の足りなさがもどかしかった。
しかし、序盤で戦艦から海中に落ちた兵士が見殺しにされるように、国家の維持存続のために個人が迫害されていく様を淡々と炙り出した手腕は見事だと思う。情報戦争の様相の中でマーケティングが施されてますます人間疎外になっていくという図式は、戦争批判というより国家の在り方そのものへの批判にもなっているのではないか。
保守的政治家だったイーストウッドが、アメリカ国家を冷静に批判できるスタンスを持っていることが凄いと思った。
ただ、「ミリオンダラー・ベイビー」でもトレーナーの語りで進められたように息子の語りで進行するスタイルは、原作がそうだとしてもノスタルジーが邪魔してお上品なオブラートがかかってしまう。良くも悪くも老境といったところか。(☆4つ)