珈琲時光


先入観から退屈で寝ちゃうかもと思っていたが、そんなことはなくてむしろスリリングでさえある映像だった。
何が起こるでもなくひたすら長回しで淡々と人物を追っている。普段、主題を絞って結論を突きつけ続ける“狭い”映画ばっか見ているから、この開放感はとても新鮮だった。見る側が受け取れる情報の選択肢が多いので豊潤な映像になっている。普通な街の風景だけなんですけどね。しかしこれはれっきとしたフィクションだし、移動シーンを延々とやられるとなぜか無国籍な空気さえ漂ってくるから不思議。
御茶ノ水・聖橋付近でしょうか、電車が交差する映像が幾度か出てくるけど、この前のタモリ倶楽部の「電チラ」でオープニングにでも使って欲しいマニア受けしそうな美しさ。こじつけて言えば“緩やかな交差”でしょうか。登場人物たちの人間模様にもあてはまるような、緊張と安らぎの交じり合った緩やかな波動を感じる。
いままで歌ってる姿をキモイと思っていた一青窈だったが、奇跡的な名演。超自然体の代名詞的な浅野君でさえ演技ぽいじゃんと思わせる。両親役の小林稔侍、余貴美子はミス・キャストだろうなぁ。二人ともまだ演技しすぎ。ただ、小林稔侍はいつもの濃い芝居を抑えてひたすらガマンしてるのがアリアリで、抑制過剰が画面を通してひしひしと伝わってくる。それはそれで逆説的に濃い芝居。その緊張感だけで肉じゃが無くてもごはん3杯いける。
これを見たら、昨年京橋のフィルム・センターとBSでやってた小津特集をほとんど見れなかったのが悔やまれた。もう一回「東京物語」にチャレンジしたい。
エリカは昔一度だけ行ったことあるけど狭くてタバコの煙が充満していて印象悪かった。平日の昼間に独り占めできるならまた行ってみたいな。(☆4つ)