9 Songs


(HP)
「失われた恋の記憶についての美しい映画」とかいうキャッチや、砂浜で二人で抱き合っている写真からして「エターナル・サンシャイン」を想起させるが、実際は想定の範囲外とはいえマイケル・ウィンターボトムならではの意匠を感じさせる映画。
セックスとロックのライブと南極大陸
というかほとんどが延々とセックス。最初は「あ〜、せつない」とか思ってたけど、拘束プレイとかちょっとテクニカルになったり、女のあそこや男のあそこにカメラが寄っていって画面の中央にボカシ入ったチンポが鎮座ましましたりすると「なんだかな〜・・」になってしまうのです。公称セックスレス10年以上のオジサンには正直キツかった。二人の価値観とか愛情の変化をうかがい知るようなエピソードが少ないので極端な話、セックスしまくって唐突に別れたみたいな感じ。
しかもUKロックは全然わからんし。プライマル・スクリームしか聴いたことない。ただ、画面に歌詞が字幕で出るのでそれが結構良かった。感覚的・抽象的に反体制ぽいカッコイイのもあれば、「毎日が休日だったらいいのにー・・」なんて、このサウンドにその歌詞かい!ていう情けないのもあったり。
そして轟音のラウドロックから静寂の南極大陸に切り替わるところがミソ。“南極”は「ピュア」あるいは「永劫」なのか。長い年月をかけて作られる氷の山々は「失われた過去の集積」としてのメタファーなのか。宇宙空間にたった一人で佇んでいるような孤独感に襲われる。
二人が愛を交わす部屋、ライブ会場と、極く限定された狭い空間と、風の紋様が果てしなく続く南極大陸との対比。いっときの煌きだからこその美しさが際立った。
UKロックを聴き馴染んでいそうな若者のカップルも見に来ていたけど、愛あるセックスから遠ざかっているオッサンにこそこの映画の美しさ・切なさが共感できるに違いない。ウソ。(☆4つ)