誰も知らない

Nobody Knows


(公式サイト)
有楽町で観てきた。「華氏911」はエンドロールの途中で席を立ったが、これは終わった後もずっとゴンチチの曲の余韻に浸っていたかった。

帰りのエレベータで泣いてる人がいた。ちょっと驚いた。そういう映画だったのかなと。外に出たらすっかり夜で、肌寒いほど風が涼しかった。ふいに何かがこみ上げてきて涙が出てきた。国際フォーラムの中庭を歩いたら声を上げて泣いてしまい嗚咽が止まらない。東京駅の地下道に入れず、しばらくベンチに座って泣いた後、半ベソで丸の内口までとぼとぼ歩いた。ビルの夜景とか雲とか何を見ても泣いてしまった。

やはり柳楽くんの目だろう。彼の顔を思い出すと今でも泣きそうだ。演技がどうこうより彼を見つけた監督の眼力。
オープニングからしばらくは相手の目を見て話すシーンが無くてこれはシャイ過ぎると思ったが、なかなかどうして後半は肝の据わった目を見せてくれた。

朝日のコラムでマイケル・ムーアを褒めながらも、独善的な客観性の無さをチクリとやった是枝監督だが、僕に言わせりゃこの映画も十分に直情的。終盤、”埋める”シーンの後に手を触れるカットとか歌が挿入されるとことか客観描写の正反対。YOUが子供を捨てるにしては良い母親過ぎたのも意外。引いた目線のカメラだがそのクセ実にファンタジックなのだ。
顔の売れてる俳優たち(平泉、遠藤、寺島とか)を使ったのも違和感あったし、(キムだけ許す)いじめられっ子の少女は過酷な兄弟の痛みを和らげてしまって不要な役にも思える。いすれも兄弟たちをやさしく包み込んでいる。是枝監督も子供たちと撮影を共にするうちに家族に接しているような感情が芽生えたのではなかろうか。
とはいえ、これはドキュメンタリーではないのだし、今年一番に心を揺さぶられたので文句などありません。逆に監督のやさしさがにじみ出ていて、なんとも言えない余韻が素晴らしい。

カンヌから帰ってきてTV出演したのを見たらすでに背も伸びてオトナ顔に変貌しつつある柳楽くん。あと数年で金髪ロン毛とかドレッドとか鼻ピアスとかタトゥーとかマリファナとか家庭内暴力とか・・(以下自粛)。すっかり面影なくなっちゃうんだろうな。

子供の頃、母親が病気入院で実家の農家に弟と二人で預けられて、大人の顔色を伺ってはいつ自分の家に戻れるか母親に会えるのかと不安な日々を過ごしたことのある自分は、トラウマをチクチクやられたような痛みを伴うデジャブ感満載な映画だった。(☆5つ)